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ダイヤモンドの中心は、君

野球選手に推しができた話

タイトルのとおり!

福岡に引っ越してきて1年。なんと野球選手に推しができました。

人が運動しているのを観て何が楽しいのか理解できなかったわたしが!スポーツ選手を推している!あまりにも驚いているし、1年前の私に言っても絶対信じないくらい現実味はないけれど。でも、つらくて苦しくて、そして楽しくて嬉しくて、なんというか、あまりにも間違いなく、推し。

2021年のシーズンは(残念なことに)終了したので、ここまでのことをせっかくなのでまとめておきたい。


昨年2020年の10月、東京から福岡に引っ越してきた。

出勤前、天気をチェックするために毎日ローカルの朝番組を観ていると欠かすことなく流れるホークスの話題。日本シリーズ前にはアナウンサーが滝行までしていて衝撃を受けた。そんなに!?松田さん、千賀くん、甲斐くん、周東くんなどを覚えた。

11月、仕事の昼休憩中に天神の街へ足を運ぶと、商店街がホークスのユニフォームを着た人で溢れ、応援歌が流れ続けていた。二度目の衝撃。「地元に球団があるってこういうことなんだ」と驚きながら、日本一になったことを朝の番組で知った。そうして、2020年は終わった。

2021年3月。テレビをつけると開幕戦が放送されていた。この街で生きていくなら何度かホークスの試合を観たほうがいいんだろうな、となんとなく観ることに。画面の中で観たホークスというチームは、信じられないくらい、強かった。強かったし、劇的だった。

代打で送られた選手に、解説の秋山前監督が「右に川島ですか…」と意外そうにつぶやいた。その人が強く振ったバットに当たったボールは、綺麗に抜けていった。「サヨナラ」というやつだ。夢中になった。そこから、ホークスの試合を見るようになる。

そして試合を見ていく中で出会ったのが松本裕樹さん。ソフトバンクホークスの背番号66。まっすぐに伸びる美しいストレートを投げるピッチャーだ。

ここから先は、裕樹さんを振り返る。わたしが観た開幕戦、この時点でまだ裕樹さんは一軍登録をされていない。腰の手術明けで出遅れ、開幕一軍に間に合わなかった。二軍での登板も先発は一度もしていない人だ。24歳の春、4/8、彼が一軍に登録された。

4月。先発3回。

千賀滉大が戻ってきた!開幕戦で無双したあとの待ちわびたエース復帰。更に勢いづくと確信していた試合でわたしたちは痛々しい場面を見ることになる。やっと戻ってきた絶対エースが担架で運ばれていく。怪我は重く、復帰までしばらくかかることが見込まれた。

東浜が間に合わない、他の先発も不調、そこで白羽の矢が立ったのはオープン戦ですら一度も先発で投げていない松本裕樹くん。正直、起用する側も「いちかばちか」だったと思う。登録されてすぐの1イニング、そしてブルペンデーとなった4イニングを完璧にこなして、先発ローテーションに入ることになった。彼にとっては突然ふってわいたチャンスだっただろう。

でも、スタミナなのか集中力なのか、5回で急に崩れてしまうことが続き「責任投球回を投げきれない先発」の烙印は濃くなった(先発投手は少なくとも5回を投げ試合を作ることが求められる)。この時までは、不安定な子だな、と思って観ていた。

手術明けで調整もできず長イニング投げられなくて当然のところを引っ張られて気の毒だと分かる人は分かっていたはずだけれど、この頃の私と同じく事情を知らない人のほうが多かったんだろうから、それは少し残念に思う。

5月。先発3回。

先発した2日のオリ戦は無観客開催。テレビの前で観ていた。観客がいない静寂の中、ミットに収まるボールの音がひときわ鋭く響いた。ボールが収まったと思ってから、一拍遅れて聞こえた音。光速と音速の違い。見たことがない「まっすぐ」だった。

上から叩きつけるようなストレート、サイドスローの吹き上がるようなストレート、ストレートにも色々あるけれど、どれとも違う「まっすぐ」。ミットに平行に向かっていく直線。のちに「伸びがある」と表現されることを知った、あのストレートが頭の片隅に残った。2度目の敗戦投手となった日だけど、忘れられない日。

9日、ホーム戦。対西武。

無観客になる前にと行った試合の先発が松本裕樹くんだった。マウンドに立つ彼は独特のリズムで、自分で自分を追い詰めるように投げる人だと思った。周りのおじさんたちが、石川みたいにテンポ良く投げろ、と呟くのを耳にしながら、この中でも自分の時間を失わず焦らず投げててえらいな、と思いながら観ていた。1失点で降板して、後半リードで泉くんに勝ちがついた。ギータといずみんのヒロインはスター性が炸裂していていいものを観たなと思った。

19日、西武戦。

エラーが多くて長い試合だったけど裕樹さんの自責は1でチームも勝った。今宮さんも源田くんもエラーをする珍しいシーソーゲーム。裕樹さんも試合が長くて疲れただろうな。勝ち投手の権利を持ってマウンドを降りたけれど不運にも中継ぎで勝ちが消えた日。

このときまで、先発ローテーションのこともよくわかっていなかったから、たまに先発で投げる人、だと思ってた。

思ってたけど、交流戦を前に配置転換が報じられた。中継ぎに回った笠谷くんが先発に、松本くんが中継ぎに。逆のほうが向いてそうだけどな、先発で見たかったけどな、そんな印象を持った。

中継ぎに回ってからの「松本くん」は素晴らしかった。中日戦はカードあたまに2回を投げて、すぐ中1日で3戦目の3回を投げて、同一カードで5イニングをパーフェクトピッチ。暗黒の交流戦が始まる中、救世主だと思った。そのときにはもう好きだったけど、ピッチャーではいちばん好きかな、くらいだった。

30日、巨人戦。

炭谷相手に投げた外角のストレート。定規で引いた線が見えるような軌道だった。生まれてはじめて人が投げた球を「綺麗」だと思った。何が起こったかわからないくらい、目を奪われた。このひとの投げる球が何度でも観たいと思った。また観たい、次はいつ?「次」を待つ気持ちでいっぱいになった。

6月。

1日、横浜戦。

2点差の8回。ピッチャー交代でマウンドに上がったのが「松本くん」だった。ここで?他にいないの?疑問はあったし、不安もあった。不安どおり、制球に苦しんで、塁が順調に埋まり、その日猛打賞の牧くんがネクストにいる状態で申告敬遠が告げられた。この日ほど、監督が憎かった日はない。

案の定タイムリーを打たれ、3点を失い、敗戦投手になった。3回目の敗け。涙が出るほど悔しくて、はっきりと私は松本裕樹さんのファンなんだと認識した。悔しいをすべて引き受けられるなら、どんな痛みも耐えるのに、そう思ったから。ここにひとりの松本推しが誕生する。誰のファンですか?松本裕樹くんです。

それ以降は登板間隔をあけながら、先発が崩れた日のロングリリーフに落ち着いていた。たくさん投げるところが観られて嬉しいなあの気持ちしかなかったけれど、ビハインド要員だとか敗戦処理だとかきびしい評価を受けることも多かった。それでも本人は淡々と0を重ねて、結局6月の失点は横浜戦の3点だけだった。そして、今シーズン負けが付いたのも、この日が最後だ。

30日の北九州は投げなかったけれど、ブルペンが見える球場だったから私はずっと裕樹さんを観ていた。大量点差の8回、9回で翔さんと並んで肩を作っていた。多分、ふみまるとジャスティスがつかまったら出ていく予定だったんだろうな。森山コーチにもういいよと言われて何でもないようにもとの位置に戻る姿を見たら、いつでも準備してないといけなくて大変そうだけど、でもこういうところで出てくる人でもない不思議な立場、と思った。

そしてほんの少しだけ、沖縄で投げる先発足りないけど裕樹さん投げないかなあと期待した(結果はレイさんが中5で投げた)。

7月。

オリンピック出場の調整登板でエースの復帰が早まった。誰もが心配したけれど、千賀くんだし大丈夫だろうの気持ちだった。

今日は千賀くんが先発だから裕樹さんの出番はないだろうなと思いながら帰宅してテレビを付けたら、惨状といっていいほどの光景があった。投げても投げてもアウトが取れない、ホームに続々とロッテの選手が帰ってくる、夜のマリンは容赦なくエースを襲い続けた。

3回もたずにマウンドを降りたエースの代わりにマウンドに上ったのが裕樹さん。久しぶりの登板。当たり前みたいにそのイニングを終わらせて、千賀くんがほっとしたように労っていた。

人が出したランナーを背負って抑えること、並大抵じゃないと思う。それを果たしただけでもえらいのに、裕樹さんはそのあとの回もきちんと抑えた。そのあとの回、内角のカットボールを上手く拾われてエチェバリアにホームランを打たれてしまったけれど、あの日、千賀くんのあとを引き受けられたのは裕樹さんしかいなかったと思う。彼の防御率に傷がついたのは悔しかったけれど、でもかっこよかったな。

9日。久しぶりのPayPayドーム有観客。鷹の祭典。武田くんがつかまった。あとをついだふみまるもつかまった。そして裕樹さんも、同じようにつかまってしまった。

個人的にはまさたか相手のフォアボールが全てだったように思う。継投で「流れを変える」というのは大変なことだ。打たれたとき、ピッチャーはいろんな顔をする。ほとんどの人が、放心状態のようになる。

この日の裕樹さんは、痛みを耐えるような顔をしていた。ぎゅう、と、顔全体で堪える顔。あの表情を思い出すだけで涙が出る。責任を持ってその回を抑えきった姿はちゃんとかっこよかった。

11日、同一カードのオリ戦。

久しぶりに現地で見た裕樹さん。前回ロングリリーフを託されていた彼が今度は「7回の男」として登板した。この日の投球が、素晴らしかった。1点ビハインドのラッキーセブンを無失点に抑えて流れを変えてくれた。久々に彼の彼らしい仕事を観られて嬉しかった。最高の内容を観たすぐあとにタオルを掲げられる7回の男、リリーフでいちばん好きなポジション。後半リードで、チームは勝った。裕樹さんに勝ちはつかなかったけれど、流れを変えたのは裕樹さんだ。

14日もとてもいい内容の投球で、改めて変化球の引き出しが有効に使われると印象が全く違うと思った。「技巧派」と呼ばれていい、そんなピッチングをしていた日。これが前半戦最後の試合。

前半戦は「なんとか」一軍でいられた内容。ベンチを外される日もちらほらあって、後半戦への不安は残った。そしてなぜか二軍戦へ登板。あまりにも「いいところがない」投球内容で、不安は増した。後半、わたしが行くべきは地行浜なのか、船小屋なのか。エキシビジョンの練習見学は、出席確認のような気持ちだった。

そして迎えたエキシビジョンマッチ。最高だった!!!初日、練習見学に行ったら先発陣と一緒に練習をしていたからすごく期待した。期待したけど、翌日には控え投手陣の方で練習していて、少しがっかりした。でも、その日の横浜戦、リベンジとして完璧な2回パーフェクトピッチング!!!知ってる裕樹さんだ。おかえりなさい、と思った。

エキシビジョンマッチは本当にずっと楽しかった。4登板、7イニング。どれもこれも完璧だった。自分の誕生日に行った試合では、大好きな、最高のストレートで強打者相手に見逃し三振。パテレにまでまとめられた。解説が人が投げた一球を「惚れ惚れするようなアウトコースのまっすぐ」と言ったのを初めて聞いた。そう、彼の「まっすぐ」は、惚れ惚れするほど美しい。知ってた。えへ。

巨人戦は3イニングを完璧に抑えて、広島戦では7回の登板、非公式ながらも勝ち投手になった。彼のポテンシャルが余すことなく発揮された機会を観られてよかった。公式戦のプレッシャーという克服すべき課題も見えたように思う。

後半戦。8月。

15日、ハム戦。継投ノーノー達成。調子はよくなかったと思う。先頭打者に出したフォアボールは明らかに自分の球が投げられていなかった。それでもなんだかんだ失点しないところは彼のすごいところ。でもさすがにこの日の裕樹さんを打てなかったハムにも問題があるぞ。笑 そのくらいよくなかったし、裕樹さんはおハムを舐めすぎ。笑

22日、カーターくん先発でビハインドの6回。26日、笠谷くん先発でビハインドの8回。気づいたらロングリリーフの役割が高橋礼くんのものになっていた。だからといって勝ちパターンに回るわけでもなく、ビハインドの終盤を投げることが増えた。もともと、不安定な先発のバックアップ要員だったから、登板間隔はあきがちで、扱いに対しては不安も不満もあった。

ロングの礼くんは明らかによくなくて、カーターくんを試そうとした日もあったけれどそれもよくなかった。

散々「ロングリリーフでしか使えない」と言われてきた裕樹さんだけど、結局のところ彼のその役割は他の人たちも求められて、でも完璧にできる人は他にいなかった。先発だってそう。しっかり調整をしても一軍の先発で責任投球回まで任せられる人がほとんどいない中、彼はきちんとやっていた。

ただ、他にロングがいないと裕樹さんは先発に戻れないな、と複雑な思いを抱えながら過ごした。

31日、宮崎で行われた鷹の祭典。3点ビハインドの9回を投げた、あの日はとても印象に残っている。島内相手に「手が出せない」球で締めくくった姿がとてもかっこよかった。「競っている場面」をきちんと抑えるようになった。リリーフ陣が崩れることが増えた中で「7回は松本でいいんじゃないか」の声も聞かれるようになっていた。

9月。

12日まで登板がなかった。ベンチにはいるのにどうして出てこないのか、どうして礼くんがロングリリーフをやっているのか、不安で仕方がなかった。裕樹さんしかいないような場面で裕樹さんが投げていない。ベンチにはいる。でもマウンドに上がらない。怪我でもしたのか、よほどコンディションが悪いのか、何もわからなくて怖かった。

中11日、間隔が空いて、久しぶりに現れたとき、心からホッとした。何事もなくてよかった。和田さんの後を継いで、2イニングを完璧に抑えた。登板間隔が11日も空いたのに、そんなこと感じないくらい、素晴らしいピッチングだった。この人を干している球団があるなんて信じられないな、と思ったし、改めて投げるたびに大好きになった。

15日。ホーム戦、カーターくん先発で苦手なロッテ。

4回から2イニングのロングリリーフ、完璧な内容で無失点。3回しか投げられない投手を先発で使うなら裕樹さんを先発で使ったらいいのに、は今シーズン100回は思ったこと。

5回を投げ終わり、その間にリードして裕樹さんに勝ちの権利がついた。誰もがもう1回投げると思ってた。ピッチャーが回をまたぐとき普通はベンチ前でキャッチボールをするけれど、5回が終わるタイミングはグラウンド整備を行うので試合中にキャッチボールはやらない。キャッチボールしてないけど、出るよね?そう願ったけれど、無情にもピッチャー交代が告げられ、継投は失敗し、チームは負け、裕樹さんの勝ちも消えた。

試合時間が長かったから帰りのバスもなくなって、地下鉄の駅まで泣きながら歩いた。どうしてこんなに勝利が遠いんだろう、彼の力の及ばないところですり抜けていくことが悲しくてたまらなかった。

20日楽天戦。

ここにくるまで、調子が悪くても長い回を投げさせようとしていた和田さんをスパッと5回で替えるという判断、裕樹さんがいなかったらできなかったことだと思う。5回から登板して3イニング、立ち上がりの調子は悪かったけれどしっかり修正して無失点に抑えきった。

「勝ってる場面で3イニング投げる投手は最近なかなかいない」と解説が言っていた。通常、ロングリリーフなら「7回までつなぐ」役割になるけれど、裕樹さんはすでにご自身が「7回の男」となるのに十分な人だから、自ら7回まで投げて、守護神につなぎ、勝利投手になった。

すごく長かったけれど、そうなるべき人がそうなった、私はそれがとにかく嬉しかった。ウイニングボール、そのボールはずっと彼の手に収まりたがっていたはずだ。

26日、ホームの日本ハム戦。

先発は笠谷くん。5回1失点の素晴らしい内容。その後を6回から引き継いだ。ランナーは出したものの、それ以外のアウトをすべて三振で取るなんて裕樹さんじゃないみたいだった。彼はいわゆる「打たせて取る」タイプだから、もともと奪三振率が高い方ではない。それが、リリーフに回ったら三振をばんばん取っている。

通常、打たせて取る人は先発向きだ。球数を少なく済ませられる。それとは違って、リリーフは三振を取ることが求められる。イニングが重なると野手の疲労も考慮しなければならない。だからこそ、調整が難しいものだと思うのだけど、彼はきちんと求められる場面に合わせて変化している。いわゆる「野球脳」がずば抜けている証。改めて、計り知れないなと思った。

彼の登板後、打線が息を吹き返し、2連続の勝利投手になった。今シーズン無観客を繰り返した本拠地、先発、中継ぎと起用が定まらなかった推し。お立ち台に立つところが現地で観られるなんて思わなかった。「本日の勝ち投手、松本」のアナウンスを聞いたときは泣き崩れた。とても長かった気がした。

グラウンドをゆっくりと走る裕樹さんを、ライトが追う。光に包まれて客席を見渡す姿は輪郭が淡く煌めいて彼自身の中から放たれる光のように見えた。

球団を応援している人はたくさんいるって知ってても、自分個人にファンが居るなんて考えたことあるのかしら、と疑問に思っていたけれど、この日、自分のファンのことはとても大切にしてくれる人だということがわかったので嬉しかった。テヘヘ

30日、西武戦。先発は杉山くん。

5回の登板。さすがに少し疲労が見られた。厳しいゾーンで勝負して、彼には珍しくフォアボールが連続した。押し出しでの失点、悔しくなかったはずがない。打ち込まれて、2失点。彼の失点に多いケースだけれど、こういうテキサスやゲッツー崩れの守備ミスでアウトが取れないのはとても苦しかったと思う。肩を落としてベンチに戻っていく姿が切なかった。お疲れ様、あなたは悪くないよ、そう声をかけられない、客席にいるしかないなんて、ファンは非力だ。

10月。CS進出はほとんど絶望的になる。

5日。先発は東浜。

ひろし、翔さん、安定していたはずのセットアッパーが揃って打ち込まれた。通常、翔さんが出てくるということは、それはもう後ろが決まっている(モイネロ・森)ということだから、裕樹さんが出てくることはない。万が一、点差が開いたとしても、そんな場面で出されるような人ではない。次の日も仕事だし、ドームを後にして帰宅したら、裕樹さんが登板していた。

これがホーム最後の登板だった。未だに悔やんでも悔やみきれない……。完璧な内容で無失点。こんな場面でもえらいのかよ。好き。(けっきょくね)

7日。ビジターでお得意の西武戦。先発は杉山くん。

前回、西武にこてんぱんにやられた杉山くんが先発で大丈夫?の不安は的中で、3回ツーアウト満塁のピンチになった。それを抑えるために登板したのが、裕樹さんだった。いくらこれまで安定しているからって、なんてところで出してくるんだ……と思ったけれど、彼はきちんとそのピンチを抑えた。かっこよすぎて、どうにかなりそうだった。

前もそんな場面があったけれど、誰かが背負ったランナーを抑えることは大変なことだ。それをこなしただけで使い切っていただろうに、次の回も登板した。次の回では苦しい投球で、2失点、そして、次の回も投げた。どうしてこんなひどいことするの?泣けてきたけれど、次の回は無失点に抑えた。

なんとなく、このとき、彼をこの回も投げさせたのは、何かを試しているのではないか?と想像して、でも、そんな期待は何回も裏切られたよね、と言葉には出さないようにした。そして。

9日、ワクチンチケット以外も人が入る久しぶりの試合前練習見学。中に入って内野を見ると、先発投手陣の中に裕樹さんがいた。

「(やっぱり!!!)」

やっと、やっと、スターティングピッチャーの名前が裕樹さんになる。(遅いよ!!!!!)と思いながら、その場で登板日を予測して仙台のホテルと航空券を手配した。(先発メニューを終えて外野に向かう裕樹さんの背中を見送りながらスマホでホテルと航空券を手配するオタク)

そこからの日々は、緊張の連続だった。楽天防御率を買われて14日の先発と予測したけれど、実はハム戦の先発だったら?雨で前日の試合が流れてローテがずれたら?そもそも本当に裕樹さんは先発するのか?ぐるぐるぐるぐる考えて、13日に予告先発が出たときは安心で腰が抜けそうだった。おかえりなさい、おかえりなさい!

14日。5/19から約5ヶ月ぶりの先発マウンド。絶対に負けられない楽天戦の試合を、きっちり作った。3回まで無失点の好投で、先制点を許さなかった。内容だって今まで見てきた中でも上位に入るくらいすごく良くて、解説でも内に外に逃げる変化球を絶賛されていた。読めない、読ませない。「上手い」ピッチングが見れた。

4回、2失点しても内容は良かった。もう1イニングいかせてほしかったけれど、先発を期待されたカーターくん杉山くんができなかった「試合を作る」役割をしっかり果たしていて私は大満足だった。仙台、行ってよかった。

その次からも、先発陣に混ざって練習をしていて嬉しかった。評価、してもらえた!とか、またチャンスがある!とか、色んな気持ち。この期間が正いちばん幸せだったかなあ。幸せだったから、突き落とされたときの悔しさも倍だった。

残す楽天戦2試合、負けたらシーズンが終わる。大切な試合。先発候補は3人。外れたのは、裕樹さんだった。一生、納得なんていかないと思う。対楽天防御率は抜きん出て良かった。前回の先発登板も、試合を作ってチームは勝った。裕樹さんじゃない理由がないのに、裕樹さんじゃなかった。悔しくて、悔しくて、たくさん泣いた。彼はもっと大切にされるべき人だ。それなのに、あんまりだよ。

練習後の最終戦セレモニーで、しゃんと背筋を伸ばして前を見る姿が印象的だった。彼はいつも、静かに前を見ている。その先にあるものが輝く未来でありますように。

坂東くんがずっと忙しそうにいろんなところに手を振っていた。人気者は大変だ。裕樹さんはたまに、思い出したように手をひらひらとさせていた。キャツキャッ

23日。最後の登板。

負けたら終わりだった。苦手な楽天を前に、ナォが試合を作れなかった。

裕樹さんが出てくるときには、もう、試合は終わっていたに近かった。フォアボール、エラー、被本塁打。裕樹さんじゃないみたいだった。コントロールに定評があり、めったにフォアボールを出さない裕樹さん。フィールディングが上手で、牽制もライナーを掴むのも反応速度が素晴らしい彼の、あまりに残念な姿だった。ホームランを打たれたとき、打たれたら悔しそうに顔を歪める彼の表情が、すこんと心から何かを抜かれてしまったような、弱々しい表情で、感情が空洞に感じた。

でも、ここから2人の打者をしっかり抑えた彼の投球は、これからを感じさせるいい内容だったと思う。これまでなら、途中で交代させられていたところだけれど、彼が投げきったことに意味がある。それに。負けられない試合で出たのが裕樹さんだった。それが全てなんだ。

「森で打たれたらしょうがない」とおなじくらい、「松本で打たれたらしょうがない」もう、そんな位置にいる人だから、だから、胸を張ってほしいと、そう思う。

24日。投げなかったけど、ビジターだから長めに練習が見れて、今まで練習見てきた中で一番丁寧にフォームの確認をしていた!もう、その前向きな姿が観られたことで好き好き好き好き!!!!!!!!になって困った。笑

もうあと2試合しかないのに。きっと登板する場面もないのに。それでも、より良くあろうとしてる。その姿が、大好きから離してくれない。彼のまっすぐが好きだ、それは投げる球もそうだし、気持ちや姿勢も、そう。

25日、シーズンが終わった。工藤監督が退任され、花束が渡された。いつも控えめに後ろの方にいる裕樹さんが、監督のすぐ後ろで少しだけ目を赤くして笑っていた。寂しい冬が来る。

4月に登録されて、一度も抹消されずシーズンを終えたのは石川と裕樹さんだけだ。(開幕からいたのは石川だけ)

悔しい最後になったかもしれないけれど、試合数も投球回もキャリアハイの数字で、防御率3.79、奪三振率7.21は素晴らしい数字だ。来年の集合写真は、新監督に優勝をプレゼントする形で撮れたらいいね。

野球選手に推しができて、初めて過ごしたシーズンだった。感情がジェットコースターでとても疲れたけれど、裕樹さんのおかげでたくさんの感情に出会えてやっぱり幸せだったと、そう思える。試合前練習で、裕樹さんはほとんど人と離さない。自分の世界に集中して、丁寧に没頭している。人を寄せ付けない。だからこそ、彼のそういう姿勢だったり努力というのはなかなか人に見えづらい。写真もほとんど上がらないし、声も聞けないし、他の選手のファンからしたらつまらない選手だと思う。

でも、そんな裕樹さんだから好き。そんな裕樹さんだから、他にいない。日陰で咲く花もある。大きく花開いたとき、今のわたしたちにとって千賀くんがそうであるように、松本裕樹の名前とその背番号66が意味するもの、それが「希望」になる日を夢見ています。