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ダイヤモンドの中心は、君

甘いことば耳に溶かして

夜は同僚と飲みに行く約束をしており、家を出る時間までぼちぼちとダンボールに荷を詰める作業を始めた。思いのほか「引越し当日ギリギリまで使う」ため詰められないものが多く、意外にたくさんは詰められなかった。置いてあるものはそんなに減っていないのに箱が増えたから部屋がとてつもなく狭くなり窮屈である。まあそれもあと3週間弱のがまんゆえ……。

日にちを見るたびに「もうそんなに時間がないのか~~~」と思う。3週間後にはもう、あちらでの暮らしをスタートしているのだ。まったく実感がない。ヒェ~。

中途半端に増えたダンボールをなるべく端に寄せて、早めに家を出る。飲みに行く店は決めていいと言われたので日比谷のチーズDenにした。ラクレットのトロ~を見てテンション上がりたい気分だったので。せっかく日比谷に行くので、ミッドタウンに行こうと待ち合わせより早めに家を出たのだった。久々に行くと日比谷があまりにも「知っている街」なので郷愁で胸がいっぱいになってしまった……。オタクとしてのふるさと、やっぱり下北沢でも新宿でも中野でもなく有楽町だな……。ミッドタウンにいるから近くまで来たら連絡してね、ゴジラのところで待ち合わせしようとLINEをしてふらふらといろんな店をひやかした。ミッドタウン、スムーズに下りエスカレーターに乗れないくらいには人が多く日常が戻りつつある気配を感じる。

待ち合わせ10分前くらいに「迷った」と連絡がきたので「どこにいるの」と聞いたら「西銀座デパートって書いてある」と返ってきた。地下鉄ユーザーがどう間違ったらそんなところに!?

ミッドタウンもゴジラも知らなかったけれど店の地図を見て行けばわかるだろうと歩いていたら迷ったらしい。とりあえず君はいま目的地に対してJRの線路を挟んで反対側にいるから線路の方向に歩いてほしいという旨を伝え、なんとか行けそうと言われたのでトイレに行ってからゴジラに向かったら私が行くより前に着いていて男の人は足が速いな。到着できてよかったよと伝えると、交番でゴジラはどこか聞いたと言われ「それはとても恥ずかしいことだ」と教えた。

おいしいものを食べ、いろいろ話す。楽しい。コース前菜の巨峰のカプレーゼがおいしかった。チーズといえば赤ワインのイメージだったけれど飲み放題のワインはどれを選んでも合うようになっていてさすが。白も赤もまんべんなくたくさん飲んだ。

最近はずっと運動をしており、同僚は筋トレマニアなので「BCAAは実際に効果があるのか?」と聞くと、「ああーそういうの、あげたらよかったな」と頭を抱えていた。そうかその持っている大きなUNITED ARROWSの紙袋はやはりわたしにくれるプレゼントか、と一瞬ソワとしたがBCAAはアミノ酸だけど疲労回復なら別の酸(忘れた)がいいし燃焼効果を狙うなら別のサプリが良いという話が進んだ。

しばらくして、これあげるよとUNITED ARROWSの袋が手渡され、やっぱりそうだよなくれるんだなと中身を見たらわたしの好きなものたちがぎっちり詰められていてキャーと言いながら袋を抱き締めた。ハロ(大好き)の加湿器にハマーン様モデルのキュベレイ(大好き)のガンプラカミーユ(大好き)のタンブラーにあとあとたくさん。秋葉原ガンダムカフェに言って色々選んできたらしい。あとわたしが仕事中に使っている電卓が古くてダサいからという理由でなぜかちょっと高いカシオの電卓もくれた。電卓、使うかな……。

お店を出たら雨が上がっており、コースを奢ってくれたお礼に一杯だけ奢らせてくれと有楽町の高架下で飲んだ。おすすめされるがままに岩牡蠣とフライドポテトを食べ、ビールを飲み、22:00に店を出た。パーティが22:00に強制終了される世界。シンデレラですらあと2時間は長くいられたというのに。

この同僚はわたしが4、5回告白して振られ続けた相手である。最後に告白したのはもう3年くらい前になると思うので、それからずっといわゆる「とてもいいおともだち」だ。わたしの引っ越しが決まって、そのことを告げてから、いろんなものをくれるようになった。彼なりに「好きになってもらったことは嬉しかった」ことに対するお礼なのだろうなあと思いながらありがたく受け取っている。こういう関係もある。

わたしはJR、向こうは地下鉄。JRの改札まで送ってもらい、別れ際に小さく「もう1回くらい」と言っていた気がする。そうだね、9月の間にもう1回くらい飲めたらいいね。じゃあねと手を振ったらいつも姿が見えなくなるまで何度か振り返るところが彼のいいところだ。

ワインをたくさん飲んだ割にはあまり酔わなかった。紙袋の重さを噛み締めながら、最寄り駅に近いローソンでアイスを買って帰った。こういう何度でも思い出したい日の最後はどこにでもあるコンビニでどこにでもあるものを買って帰りに食べるといい。どこにいても、思い出せるので。